不動産は物じゃない
2013年08月03日
我々不動産業者は、不動産の売買、仲介を生業にしているわけですが常々社員に言っていること、それが「不動産は物じゃない」です。
この感覚は長期間不動産の売買に携わってきたからと言ってわかる感覚ではないかもしれません。同じような条件の物件が二つあるとします。一方はすぐ買主が付き、もう一方は売れ残ってしまって一年経っても売れないなどという事は良くある話です。タイミングを失した、先に売れたほうがラッキーだった、色々な言い訳をしますがほとんどの場合原因はその物件にあるのです。その原因の大きな要素、それはこの物件にかかわっているステークホルダー(利害関係者)が「不動産を物と扱っている」なんです。
不動産でも、我々が取り扱っているのは居住用マンションです。このマンション、どの部屋をとっても世界に一つしかない「物」です。同じ間取りはあっても同じ眺望の部屋は二つとありません。隣の部屋でも、階上、階下の部屋でもそのバルコニーから見える風景は違うのです。そしてその部屋で通常所有者がこの風景を眺めながら世界でただ一つの人生を送ってきているのです。その部屋を色々な事情で手放そうとしている、そのお手伝いをし、世界でたった一つの風景を眺めながら、やはり世界でただ一つの人生を歩んでいこうとする買主さんを見つけるのが、我々不動産業者、仲介業者のミッションなのです。
弊社は「お預かりした物件は必ず掃除いたします」という行動目標を掲げています。この目標こそが「不動産は物じゃない」という思いの体現なのです。中古マンションを販売する場合、前居住者の生活感がある物件は空室であっても買主さんの新しい生活へのイメージを湧かせるのが大変です。その為、内装をするかクリーニングをかけるかとなるわけですがプロでない限り次の買主の為に売主さんが内装するケースはほとんどありません。そこで部屋のクリーニングを行うことがありますが、それを弊社の営業が行うのです。何故か?これは一つの儀式のようなものです。売主さんのこの売り物件に対する思い入れを引き継ぐための・・・。掃除をし、一つ一つの汚れを落としていく過程で売主さんの生活が実感できます。柱の傷を見ては子供さんの成長を感じ、部屋の壁の画鋲後を見つけては生活の時間を感じと、色々な生活を想像しながら一つ、一つ汚れを落としていくうちに売主さんの思い入れを一つ、一つと引き継いでいくのです。そして、預かった物件の縁を繋ごうという気持ちが高まってくるのです。この思い、これが案内をした買主さんに伝わるのです。
「何を思いなどと、非現実的な」などという方は信じなくても結構です。しかし、これは紛れもない真実です。営業が懸命に掃除をした部屋は決まります。買主さんが購入後内装を全てやりかえ結局掃除した意味がないように見えても、その買主との縁を繋ぐのは営業の思い入れなのです。
不動産は物ではありません。心があるのです。大切に扱えばしっかり返してくれます。それを理解できる営業集団であり続けたいと思います。